『墓じまい』~祖先のお墓と祭祀承継問題の対策方法と注意点

『墓じまい』~祖先のお墓と祭祀承継問題の対策方法と注意点最近よく耳にする「墓じまい」。「墓じまい=単なるお墓の処分」と思っている人もいるようですが、ちょっと違います。墓じまいという言葉の意味は、「遠くにある祖先のお墓を継ぐ人がいないため、自分達の代でそのお墓を別の形で供養する」というものです。

実際に、お墓の跡継ぎ問題を抱えている人は多くいます。子どもがいない、嫁に行った娘達ではお墓が継ぐことが難しいなど、いろいろ事情があるからです。祭祀承継(お墓の跡継ぎ)を考えると、自分の代でお墓の問題を解決しておきたい。しかし、実際に何をどう注意したらよいのかわからない、そのような方が筆者のところにも相談にいらっしゃいます。

そこで今回は、いまある祖先のお墓の跡継ぎ問題と、そのお墓をどうするのか「墓じまい」についてお伝えしていきます。実際に準備対策を行なう親目線でお伝えしてきますが、その親が行なう対策次第で子どもが困ることになるため、後を継ぐ子どもの立場としても知っておきたい情報です。

 

『墓じまい』~祖先のお墓と祭祀承継問題の対策方法と注意点

 

1.祖先のお墓をどうするのかを考えておく必要性

人間誰しも生きていれば年を取り、いつか必ず死を迎えます。その時に最初に行うのがお葬式。そしてそのあとお墓(遺骨)をどうするか決めていかなければなりません。

例えば父が死亡したとき、父が先祖代々のお墓の祭祀承継者(お墓の管理をしたり法要を行なう人)の場合、通常は父もその先祖代々のお墓に入るものです。

しかし、祭祀承継者がいない場合、「誰がそのお墓を管理していくのか」という問題があります。管理できないお墓に父を納骨して、その後どうするのでしょう。そのお墓に父を納骨しない選択をするならば、その先祖代々のお墓はどうするのでしょう。そのままにしておくわけにはいきません。

祭祀承継者がいたとしても、その先祖代々のお墓が家の近くではなく、遠い地域にあるお墓だったらどうでしょう。そのような場合、やっぱり近くのお墓に・・・と思っても不思議ではありません。めったにお参りに行けない遠い場所のお墓よりも、近くにあるお墓の方がお参りしやすいと思うのは自然なことです。

そこで、遠いお墓や祭祀承継者がいない場合には、先祖代々のお墓をどうしようという、いわゆる「墓じまい」の問題があるのです。

ここで忘れてはならないのが、供養される側とする側の気持ち。供養される側(親)が、子どものために良かれと思ったことが反対に、供養する側(子)に迷惑をかけてしまうことがあります。親としてある程度の配慮は必要ですが、最終的には供養する身内がどう思うのかについて考えることが大切です。

それでは、まずは「祭祀承継」についてみていきましょう。

 

2.祭祀承継とは

祭祀承継者が死亡すると、祭祀財産が誰かに承継されます。祭祀財産は相続財産とは区別されるため、祭祀承継者になれる人は相続人に限られていません。墓地管理規約などの範囲(配偶者、6親等内の血族、3親等内の姻族など規約により)なら誰でも承継者になることが可能です。

一般的には、現在の祭祀承継者が指定した人が承継者になりますが、この指定は口頭でも遺言書でもできます。何の指定もなかった場合には、配偶者や長男が承継するケースがほとんどですが、承継の指定がなく話合いでも決まらないときには、家庭裁判所が決めることになります。

祭祀承継者の権限はかなり強く、墓地の規約に該当することが前提ですが、お墓に入れる人を決めることができます。そのため、名字の違うきょうだい、親せき、内縁の配偶者などを入れることも可能ですし、身内でも入れない選択をすることもできます。

 

3.祭祀承継者がいない場合の「墓じまい」の選択肢

祭祀承継者がいない、いても継げない場合(実質的にいないに該当する場合)には、次の3つが選択肢になります。

  1. 他の親族に承継してもらう
  2. その場所で永代供養のお墓にする
  3. お墓(遺骨)を別の地域に移転する

 

(1)他の親族に承継してもらう

先祖代々のお墓の近くに親族がいるのなら、その親族に引き受けてもらうのも一つの選択です。ただし、祭祀を継ぐということは、今後、お墓を維持する費用や供養にかかる費用の負担が伴うということです。その費用をどうするのかについても考えておかなければなりません。

 

(2)その場所で永代供養のお墓にする

親族がいない、もしくは親族が引き受けてくれない場合には、今ある墓地で、永代供養にする方法があります。

そのお墓のままその場所で永代供養してもらえるケースもまれにありますが、大抵は同じ敷地内にある「永代供養墓」に移すケースがほとんどです。

お墓を移すということは、次の「(3)お墓(遺骨)を別の地域に移転する」にも関連しますが、お墓(遺骨)を別の場所に移すということは、今あるお墓を更地にしなければなりません。その前に、遺骨を取り出すといっても、勝手に取り出して移すわけにはいきません。

多くは、供養をしてもらい遺骨を取り出します。今まで「お墓」だったものを「石」にしてもらう「魂抜き(閉眼供養)」をしてもらう必要もあります(宗派により異なります)。また、石材店に遺骨を取り出してもらったり、その後のお墓を解体して更地にしてもらう依頼もしなければなりません。

そして、永代供養墓に移すということは、永代供養料も必要になります。そもそも永代供養とは、「一定期間の供養」をしてもらうものです。期間は供養するお寺等によって違いますが、13年や33年、指定期間などです。その供養期間に対する費用が必要になるということです。

 

(3)お墓(遺骨)を別の地域に移転する

永代供養が今の墓地の場所でできない場合には、お墓(遺骨)を別の場所に移すことが必要です。

遺骨を移す、つまり新しいお墓を探す場合には、大前提として、宗旨・宗派があるのか、区画等の墓地や墓石のお墓がよいのか、永代供養のお墓にするのかなどによって、寺院墓地や霊園、樹木葬、納骨堂、散骨などお墓のタイプが変わります。

一般的に民間運営の霊園であれば「宗旨・宗派不問」の表現は、どのような宗教であってもよいという意味合いで使われますが、寺院墓地の場合は、仏教の信仰者であることが前提で、納骨したあとは運営するお寺の宗派で供養されることになります。檀家になったり再度戒名が必要になったりすることもあります。

区画等の墓地を望むのなら、寺院や霊園などになりますが、墓石ではなく木や花などを墓標としたいなら、樹木葬を選択することになります。永代供養のお墓がよいのなら、永代供養墓として契約できる場所でなければなりません。永代供養のお墓には、合祀墓のほか、樹木葬、納骨堂などがあります。自然に還りたい、お墓という枠にとらわれたくないのであれば、樹木葬、散骨、手元供養などという選択肢もあります。

 

4.「墓じまい」をするなら

上記の3つの選択肢の中で、(1)親族に頼れるなら親族という選択肢がよいのですが、それが難しい場合には、(2)のその場所で永代供養にするのが一番無難です。

なぜかというと、(3)のお墓(遺骨)を別の地域に移転するケースは、今ある墓地と移転先の墓地の市区町村役場での「改葬の手続き」が必要になるからです。((2)のケースでも本来は行なうものですが、省略されるケースがあるため、ここでは(3)の場合のみ改葬としてとりあげています)

今あるお墓の市区町村役場で改葬許可申請書をもらい、その書類に今の墓地管理者から署名等をもらったり、移転先の墓地から証明書をもらったりなどして役所に提出し、改葬の許可をもらう必要があるのです。

いろいろと手間暇もかかるため、どうしても手元に遺骨を移したい場合には、改葬という形ではなく、全部移さずとも「分骨する」という選択もできます。

 

5.まとめ

祖先のお墓をどうするのかについては、親族も関係したり、供養する人の気持ちにも配慮していかなければなりません。

「墓じまい」が、お墓を処分するというニュアンスで伝えられることもありますが、そうではありません。「面倒だからそのまま放置してしまえばよい」ということは絶対に避けたいものです。

祖先がいるからこそ今の自分達がいるわけですから、祖先の供養を、あえて次の世代の子どもたちに継がせることは親としての大切な役割であり、子どもとして受け継ぐものでもあります。

ですから、祭祀承継者がいるのなら、あえて継がせるべきです。とはいえ、それができない状況だったり、そもそも跡継ぎがいない場合もあるでしょう。そのようなときでも、今後も供養していける環境は整えたいものです。

今はお墓の選択肢も多くなりましたし、供養の仕方もさまざまあります。どのような供養のしかたであっても、「供養する」、「故人を敬う」ということを念頭に考えてほしいものです。

  • 祭祀承継者がいる場合は、あえて継がせることも必要
  • 遠い地域にあるお墓でお参りに行けないなどの場合には、そのお墓をどうするのか「墓じまい」を考えておく
  • お墓がある地域に親戚がいる場合は、親戚に依頼することも選択肢のひとつ
  • お墓がある墓地の敷地内に永代供養墓がある場合には、その永代供養墓に移すことも選択肢のひとつ
  • 墓地の敷地内に永代供養墓がない、近くに遺骨を移したいなどの場合には、お墓(遺骨)の移転をすることも選択肢のひとつ
  • お墓にかかる費用もケースによりさまざまなため、費用と手間も併せて検討する
  • 供養する側とされる側の気持ちを考えて対策する

 


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