自筆証書遺言が無効にならないために知っておきたい要件と理由

自筆証書遺言が無効にならないために知っておきたい要件と理由遺言書を作成しようと思ったときに、公証役場で作成する公正証書遺言よりも、手書きで作成する自筆証書遺言を選ぶ人が多くいます。気軽に作成できるし費用もかからないし、まして再度作成しようと思ったときにも書き直ししやすいし・・・ということなのですが、結構自己流で作成してしまって無効になるケースがあるのです。

遺言書を作成するのなら、無効にならないようにしなければなりません。多めに財産がもらえる相続人からすれば、「無効かもしれないけれど、これは本人の意思なんだから尊重すべき」と主張するかもしれませんし、財産が少なかった相続人なら、「無効なんだから法定相続分(法律で決められた相続割合)で分けよう」ということにもなりかねません。

そこで今回は、自筆証書遺言が無効にならないために必要な4つの要件について、理由とともにお伝えしていきます。意外と誤解している遺言書の重複(2通以上ある場合)についても触れていきますので、まずは要件をしっかりと満たすために、やってはいけない行為も含めて知っておきましょう。

 

自筆証書遺言が無効にならないために知っておきたい要件と理由

 

冒頭でもお伝えした通り、自分の相続を考えて、ご自身が手書きで作成する自筆証書遺言を残そうとする方が多くいらっしゃいます。公証役場での作成は、“ファイナルアンサー”でなければならないイメージがあるようです。

費用をかけて作成するのだから、最終的なものでなければならない、最終的なものにしたいなど、ただでさえ遺言書を作成するというハードルを越えなければならないのに、さらにもっと高いハードルをクリアしなければならない、そんな印象のようです(お気持ち察しますが)。

そのような方が遺言書を作成するときに選ぶとなると、やはり身近に感じる「自筆証書遺言」なのです。

しかし、せっかく作成する遺言書を無効にしないためには、自筆証書遺言に必要な4つの要件を満たさなければなりません。1つでも欠けたら無効になりますのでご注意ください。

 

要件1.自筆

全文を手書きで作成しなければなりません。たまに、署名だけ自筆ならよいのだろうと勘違いしている方がいますが、一字一句手書きでなければなりません。ですので、録音、録画、代筆、ワープロ作成などは遺言書と認められません。

もちろん、最近流行りの“消えるボールペン”を使用しての作成もダメです。シャープペンシルや鉛筆も同様です。これらは消えてしまいますので、必ず消えないペンを使用しましょう。

紙は何でも大丈夫です。チラシの裏に書いた方を見たことがありますが、無効になるわけではないものの、“正式っぽい感じがしない“と受け取られてしまいますので、おススメはできません。

年配者で意外と多いのは、大学ノートに作成しているケースです。相続人に対してオープンで良いのなら構いませんが、発見されなかったり、その後の家庭裁判所での手続き(後ほど説明します)などを行ったりすることを考えると、やはり便箋のような紙に書いて封筒に入れるパターンが無難です(ダメとはいいませんが)。

書き方は、横書きをおススメします。縦書きの場合、1→壱、2→弐のように数字を難しい漢字にしなければならず、数字を書くのも読むのも大変ですから、できれば横書きで作成しましょう。

そして、書いていて間違えてしまった場合は、最初から書き直してください。加筆・訂正・削除の仕方にはルールがあるので(訂正した行の余白に、本行弐字加入弐字削除 遺言者氏名など書かなければならないので)、その要件をクリアするよりも最初から書き直ししたほうがラクです。

 

要件2.年月日

西暦でも和暦でも構いませんが、特定できる日にちを書きます。平成28年2月吉日など日にちが特定できないものは無効になります。吉日っていったいいつなの?となりますよね。

なぜ日付が特定されなければならないかというと、遺言書が2通あった場合、新しい日付のほうが優先させるからです。

たまに誤解している方がいるのですが、新しい日付の遺言書があれば、古い遺言書は自動的に無効になると思い込んでいるケース。

2通以上の遺言書がある場合、確かに新しい日付の遺言書が有効なのですが、大前提として「重複している部分は」という言葉がつくのです。つまり、古い遺言書には書いてあるけれど、新しい遺言書には書いていないものは、古い遺言書の重複しない部分は古い遺言書が有効なのです。

例えば、古い遺言書には、「A銀行の預金はAさん、B銀行の預金はBさん、C銀行の預金はCさん」に相続させると書いてあったとしましょう。しかし、新しい遺言書には、「A銀行とB銀行の預金はA・B・Cの3人で均等に」となっており、C銀行には一切触れていない。この場合、C銀行の預金がまだあれば、古い遺言書にかかれている「C銀行はCさん」の部分が有効になるのです。

ですので、自筆証書遺言で前に作成したものがあって、今回書き直しをするという場合は、前の古い遺言書を破棄しないと面倒なことが起こりますので、書き直しの際はご注意ください。

このように、遺言書は日付でどの遺言書が有効かを見ていきますので、日付が特定されていないとダメなのです。

 

要件3.署名

署名はフルネームで書きます。ニックネームなどはダメで、理想なのは正式名称です。住民票などに記載されている漢字どおりの記載をおススメします。

たまにいらっしゃるのが、お互い夫婦それぞれに全財産を相続させあう内容の遺言書を1つ作成して、最後に連名で書くパターン。夫の財産はすべて妻へ、妻の財産はすべて夫へと書いておけば、2通作成する必要もないしわかりやすいからという理由なのですが、これは無効になります。

遺言書は1人ずつ作成しなければなりません。例えば、夫の財産を妻に相続させる遺言書が1つ、妻の財産を夫に相続させる遺言書が1つ。それぞれ自分の遺言書に日付を書き、署名と押印をして完成しなければなりません。それが遺言書のルールですから仕方がないのです。

 

要件4.押印

印鑑は三文判(認め印)でも大丈夫ですが、大抵は実印を押すケースがほとんどです。100円ショップで売っているような三文判で押すよりも、実印のほうが遺言書っぽいからという理由のようですが、これはどちらでも大丈夫です。

しかし、拇印は避けるべきです。裁判で拇印でも認められたケースはありますが、印鑑を押したほうが無難です。そして浸透印(いわゆるシャチハタ印)は印鑑として認められていませんので、必ず朱肉を使って押す印鑑を使用してください。

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自筆証書遺言は、内容でもめたり、その後の手続きでトラブルになったりすることがあるため、注意点は数多くあります。それらは別の機会にお伝えしますが、何より大切なのは「要件を満たした無効にならない遺言書」でなければなりません。

自分で作成した自筆証書遺言が、要件を満たした(加筆・訂正・削除等も含めて)有効なものなのか、せめてそれくらいは遺言書作成を取り扱っている専門家に見てもらいたいものです。

もちろん、有効無効だけではなく、内容なども大切ですし、書き方のルールもありますから、専門家に相談しながら進めるのが一番ですので、可能なら、そうすることをオススメします。

 

まとめ

  • 書き間違えのない状態で、全文手書きで作成すること。
  • 日にちが特定できるように、年月日を書くこと。
  • 署名はフルネームで書くこと。住民票などと同じ漢字を使うのがベスト。
  • 押印を必ずすること。シャチハタや拇印はNG。
  • 作成した自筆証書遺言は、専門家に有効無効を確認してもらうとよい。

 


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