ところがこの「遺言書」、自筆証書遺言(手書きで作成する遺言書)、公正証書遺言(公証役場で作成する遺言書)など種類があります。
どの遺言書で作成するのかによって、相続手続き(遺言執行)が違いますので、作成する遺言書によっては配偶者の大変さも違ってきます。「相続で困らないように」という思いで遺言書を作成するのなら、配偶者が大変な思いをしないようにしておくことも大切ですね。
その大変な思いをさせないためには、子供がいない夫婦の場合は必ず「公正証書遺言」で作成すべきです。自筆証書遺言ではどのような大変な思いをするのか、公正証書遺言がなぜよいのかについて、理由もあわせてお伝えしていきます。
妻の困り度が違う! 子供がいない夫が 選ぶべき遺言書の種類
自筆証書遺言(自分自身で作成する遺言書)、公正証書遺言(公証役場に行き公証人に作成してもらう遺言書)、それぞれの遺言書がどのようなものなのか、それぞれのメリット・デメリットについてみていきましょう。
◆自筆証書遺言と公正証書遺言のメリット・デメリット
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | |
メリット |
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デメリット |
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※検認については、このあとどのようなものかお伝えしていきます。
◆自筆証書遺言の注意点
ここからは、次の設定に当てはめて説明していきます。
(設定)
- 夫が妻に財産を残すために遺言書を作成
- 夫婦2人暮らし
- 子供がいない
- すでに両親がいない
- 夫は3人きょうだいで、兄と姉がいる
自筆証書遺言は自分で作成するため、公正証書遺言と比べれば気軽に作成できますが、作成するとなるとそんなに簡単ではありません。
遺言書には法律で定められている「要件」があるため、その要件を満たしていなければ無効になってしまうからです。その要件については、「自筆証書遺言が無効にならないために知っておきたい要件と理由」で詳しく書いてありますので、こちらをご覧ください。
遺言書を作成するなら、必ず要件を満たし、無効にならない遺言書にしなければなりません。子供も親もいない夫の遺言書が無効になってしまうと、妻は夫のきょうだいと遺産の分け方を話し合って決めることになります。それを避けるためのひとつとして遺言書の作成をするのですから、要件クリアは必須です。
作成したら、その遺言書を妻や遺言執行者(遺言どおりに行う人)に託しておくことも大切です。間違っても、大事なものだからと金融機関の貸金庫に入れてはいけません。実際に相続になったときに、貸金庫を開けるために、夫のきょうだいと手続きをすることになってしまうからです。
◆自筆証書遺言のデメリットは「検認」
検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせ、検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。遺言者の死亡後に、遺言者の居住地を管轄する家庭裁判所で行います。
相続手続きのときには、自筆証書遺言を金融機関や法務局などに持参して名義変更などを行っていきますから、偽造・変造が行われないようにしておくことが必要なのです。検認が行われていない状態では、金融機関や法務局などは手続きを行ってくれませんから、自筆証書遺言の場合は必ず検認を行わなければなりません。
検認を行うためには、事前に戸籍謄本や住民票などの必要書類をすべてそろえ、家庭裁判所に申立てをし、呼び出しがあったらその日に遺言書を持参します。 ちなみに、遺言書は開封せずに持って行かなければなりません。開封してしまったとしても無効にはなりませんが、いわゆる罰金(過料)になることがあります。
◆とにかく大変な「検認」準備
子供と両親がいない今回のようなケースでは、夫が自筆証書遺言で作成すると、妻がとっても大変な思いをするのです。それは、添付書類をそろえるのが大変だからです。
検認の申立ての添付書類には、
- 遺言者の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 遺言者の除住民票
- 相続人全員の戸籍謄本
が必要です。
(1)遺言者の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
遺言者、つまり死亡した人の戸籍謄本をそろえるのですが、まずは現在の本籍地で戸籍謄本を取得します(住所地ではなく本籍地です)。その戸籍謄本に1つ前の本籍地が記載されていますので、その1つ前の本籍地で取得し、またひとつ前と繰り返し、出生時の本籍地までさかのぼります。(さかのぼれない場合はさかのぼれるところまで)
直接本籍地に行くほか郵送のやりとりも出来ますので、郵送の場合には事前にその市区町村役場に問い合わせをして行えば、スムーズに手続きができます。なお、「相続で使用する全ての戸籍謄本」の取得が必要です。
(2)遺言者の除住民票
死亡したときに居住していた市区町村役場で住民票の除票を取得します。
(3)相続人全員の戸籍謄本
これを取得するのが一番大変です。「相続人の」戸籍謄本が必要なので、相続人を確定させなければならないからです。相続人については、「だから財産がもらえない!知っておきたい相続順位と相続ケース」で詳しく書いていますのであわせてご覧いただけるとより理解できると思いますが、相続人には相続できる順位が法律で定められています。
今回のように、相続人が妻と夫のきょうだい(第3順位の相続人)の場合には、第1順位と第2順位の相続人がいないことを確定させなければなりません。
第1順位の不存在は、夫の出生時から死亡時までの連続した戸籍謄本を取得すれば、夫に子がいないことが確認できますのですぐにわかります。
第2順位の夫の父母についても、父母の死亡がわかる戸籍謄本で第2順位の相続人が不存在なのが分かります。
そして、第3順位の相続人である夫のきょうだいが、本当に兄と姉なのかを確定させなければなりません。それには、夫の父と母それぞれの出生時から死亡時までの連続した戸籍謄本を取得しなければなりません。確実に夫のきょうだいが兄と姉だけなのだと、戸籍謄本で証明しなければならないからです。
その一連の戸籍謄本で確定された相続人である、兄と姉の現在の戸籍謄本も取得するということです。
◆公正証書遺言がよい理由
今回のように、妻と夫のきょうだいが相続人の場合には、公正証書遺言での作成がベストな選択です。
公正証書遺言は作成時間と費用がかかりますが、無効になるおそれがありません。しかも検認が不要なためすぐに相続手続きも行えます。ですから、妻にとっては最も負担が少なく相続手続きも行ないやすい遺言書なのです。
公正証書遺言の作成に関しては、「公正証書遺言を”独りで公証役場に行って”作成する流れ」や、「公正証書遺言を”専門家に依頼して”作成する流れ」で詳しく書かれていますので参考までにお知らせしておきます。
自筆証書遺言の検認の添付書類である戸籍謄本の取得等を、妻が行うのは大変なことです。そうなると、専門家に依頼することになりますが、費用がかかってしまいます。戸籍謄本のみの取得を専門家に依頼することはできないため、検認の場合に限っては、弁護士(検認の代理人)か司法書士(検認書類の作成)に依頼することになります。
仮に検認手続は大丈夫だったとしても、自筆証書遺言を持参して金融機関等で相続手続きをしようとしても、金融機関等から「相続人全員の署名」を求められることがあります。自筆証書遺言の場合は、このようなケースが実際には多いのです。そうなると、夫のきょうだいにその都度署名をもわらなければなりません。
財産がもらえないと分かっている夫のきょうだいが協力的ならよいですが、そうではない場合、夫の妻は大変な思いをしてしまいます。そのようなわずらわしいことが自筆証書遺言の場合は起こりうるので、公正証書遺言のほうが妻は助かるという訳です。
◆まとめ
- 自筆証書遺言は、費用がかからないが有効無効の争いになりやすい
- 自筆証書遺言の検認手続きは、戸籍謄本取得がとても大変
- 自筆証書遺言で相続手続きを行う時に、金融機関等に夫のきょうだいの署名を求められることがある
- 公正証書遺言は時間と費用がかかるが、無効になりにくく検認が不要のため妻の負担が少ない
- 相続手続きは、公正証書遺言のほうがスムーズに行える
- 子供がいなくて両親がすでにいない場合は、公正証書遺言で作成するのがベスト